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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)3062号 判決

原告

亡石川善三郎訴訟承継人木田裕理

被告

谷滋

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇八七万三一九三円及びこれに対する平成七年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三二八八万七〇九九円及びこれに対する平成七年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通乗用自動車が石川善三郎(以下「善三郎」という。)運転の足踏式自転車に衝突して同人が死亡した事故につき、同人の子である原告が被告に対し、自賠法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年八月一二日午後九時五八分頃

場所 大阪府高槻市芥川町四丁目一番八号先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(大阪七九は九四四四)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

事故車両二 足踏式自転車(以下「善三郎車両」という。)

右運転者 善三郎

態様 被告車両が善三郎車両に衝突した。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、被告車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであり、自賠法三条に基づく責任を負う。

被告は、被告車両を運転中に本件事故を起こして善三郎をはね飛ばしたものであり、民法七〇九条に基づく責任を負う。

3  善三郎の死亡

善三郎は、本件事故により脳挫傷等の傷害を負い、入院を続けていたが、脳実質が前頭・頭頂・後頭・側頭葉にわずかに残っているだけの状態になり、平成一〇年一〇月一日、死亡した(甲六、弁論の全趣旨)。

4  相続

善三郎の死亡当時、原告はその子であった。

5  損害の填補

本件交通事故に関しては、被告から三九八三万七二八一円の既払がある。

二  争点

1  過失相殺(事故態様)

(被告の主張)

善三郎は、善三郎車両を運転し、交差点を青信号に従って進行してくる被告車両の直前を信号を無視して狭路から交差点内を斜め横断した過失がある。

(原告の主張)

善三郎は、横断歩道を青信号に従って横断中に本件事故に遭ったのであって過失相殺されるべき過失はない。

2  損害額

(原告の主張)

原告は、訴訟進行中、善三郎が死亡したことに伴い、次のとおり、損害の主張を整理した。

(一) 治療関係費

(1) 原告支払分 五〇万八二五一円

(2) 被告支払分 七六三万七二八一円

(二) 入院雑費(一三〇〇円×一一四七日) 一四九万一一〇〇円

(三) 付添費(一万二〇〇〇円×一一四七日) 一三七六万四〇〇〇円

(四) 逸失利益

(1) 死亡までの逸失利益 一一二四万四四六一円

基礎収入 四一一万七四〇〇円

新ホフマン係数 二・七三一(三年)

(2) 死亡後の逸失利益 一一一一万六五六八円

基礎収入 四一一万七四〇〇円

生活費控除率 三割

新ホフマン係数 六・五八九マイナス二・七三一

(五) 傷害慰謝料 四〇〇万円

(六) 死亡慰謝料(後遺障害慰謝料を含む) 二七〇〇万円

(七) 弁護士費用 三〇〇万円

よって、原告は、被告に対し、損害金合計額七九七六万一六六一円から既払金合計三九八三万七二八一円を控除した残額である三九九二万四三八〇円の内金三二八八万七〇九九円及びこれに対する本件事故日である平成七年八月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張)

争う。

付添費は日額五五〇〇円が上限である。

善三郎は、貸屋業を営んで不動産収入を得ていたものであり、基本的には資産収入所得者であったものであるから、逸失利益はない。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(過失相殺)

1  前記争いのない事実、証拠(甲二、三、一一2、4、乙一)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府高槻市芥川町四丁目一番八号先の変型交差点(以下「本件交差点」という。)であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。

被告は、平成七年八月一二日午後九時五八分頃、被告車両を運転し、西から東に向けて時速約四〇キロメートルで走行していた。別紙図面〈1〉地点で信号機〈甲〉が青色であるのを確認し、同図面〈2〉地点でハンドルを左に切りながら減速し、時速三〇キロメートル程度になった同図面〈3〉地点で左斜め前方から進行してくる善三郎車両(同図面〈ア〉地点)を発見し、ブレーキをかけたが間に合わず、被告車両は、同図面〈×〉地点で善三郎車両に衝突し(右衝突時における被告車両の位置は同図面〈4〉地点であり、善三郎車両の位置は同図面〈イ〉地点である。)、同図面〈5〉地点に停止した。善三郎は、同図面〈ウ〉地点(同地点に血痕があった。)に転倒し、善三郎車両は、同図面〈エ〉地点に転倒した。

善三郎は、右手に竹棒を持ちながら、ライトを点灯した善三郎車両を運転し、アパートの修理に行く途中であった。被告の対面信号機〈甲〉が青のとき、善三郎の対面信号も青を表示するようになっていた。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告が、本件交差点を通過するにあたり、横断歩道付近を横断してくる車両の有無・動静に注意し、その安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠って進行した過失によるものと認められる。しかしながら、善三郎にも道路を進行してくる車両の有無・動静に注意することが期待されたところであり、善三郎の運転態様の外、被告が衝突直前まで善三郎車両に気づいていないこと、本件事故が自動車対自転車の事故であり、その現場が横断歩道の直近であること、本件事故の時間帯が夜間であること(ただし、善三郎車両はライトを点灯していた。)、善三郎は本件事故当時六四歳であること等の諸事情を考慮すると、本件においては二割五分の過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 治療関係費

(1) 原告支払分 五〇万八二五一円

治療関係費として標記金額を要したと認められる(弁論の全趣旨)。

(2) 被告支払分 七六三万七二八一円

被告支払にかかる標記治療関係費については、当事者間に争いがない。

(二) 入院雑費 一四九万一一〇〇円

善三郎は、本件事故当日、病院に搬送され、死亡日である平成一〇年一〇月一日までの一一四七日間入院したから、右期間の入院雑費として、一日あたり一三〇〇円として合計一四九万一一〇〇円を要したと認められる(甲四ないし六、弁論の全趣旨)。

(三) 付添費 一一四七万円

本件証拠上、付添看護を要する旨の医師の診断書はないものの、善三郎は、入院期間(平成七年八月一二日から平成一〇年一〇月一日までの一一四七日間)中、常時介護を要する状態であったこと(甲四ないし六)、善三郎の妻石川容江(昭和七年九月二三日生)は平成九年一〇月一二日に死亡していること(甲七)、原告は右期間アメリカないし千葉県に居住していたこと(甲八、九、証人木田)にかんがみると、右入院期間中、職業付添人による付添看護を要したと認められ、一日あたり一万円として、合計一一四七万円の付添看護料を要したと認められる。

(四) 逸失利益 合計一八一七万四〇〇〇円

善三郎(本件事故時六四歳)は、有限会社石川商店を設立し、本件事故当時、二八世帯分の不動産の貸屋業に従事しており、少なくとも年収三九〇万円に相当する労働を行っていたものと認められる(証人木田、弁論の全趣旨)。善三郎の本件事故当時の年齢にかんがみると、本件事故に遭わなければ、本件事故後も八年間は稼働できたものと認められる。善三郎は、常時介護を要する状態のまま治療及びリハビリを続けたが、その甲斐もなく六七歳で死亡した(前認定事実)。善三郎の死亡当時、既に妻石川容江は死亡していた(前認定事実)。

したがって、善三郎の逸失利益は次のとおりとなる。

(1) 死亡までの逸失利益 一〇六五万〇九〇〇円

(計算式) 3,900,000×2.731=10,650,900

(2) 死亡後の逸失利益 七五二万三一〇〇円

死亡時における生活状況に照らすと、生活費控除率は五割が相当である。

(計算式) 3,900,000×(1-0.5)×(6.589-2.731)=7,523,100

(五) 傷害慰謝料 四〇〇万円

原告の被った傷害の程度、入院期間等の事情を考慮すると、右慰謝料は四〇〇万円が相当である。

(六) 死亡慰謝料 二三〇〇万円

本件事故の態様、善三郎の年齢、治療・リハビリ経過その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、善三郎の死亡慰謝料としては、二三〇〇万円を認めるのが相当である。

2  損害額(過失相殺後)

右1に掲げた損害額の合計は六六二八万〇六三二円であるところ、前記の次第で二割五分の過失相殺を行うと四九七一万〇四七四円となる。

3  損害額(損害の填補額控除後)

本件交通事故に関する既払金は三九八三万七二八一円であるから、前記過失相殺後の損害額からこれを控除すると、残額は九八七万三一九三円となる。

4  弁護士費用

被告に負担させるべき原告の弁護士費用は一〇〇万円が相当である。

三  結論

よって、原告の被告に対する請求は、一〇八七万三一九三円及びこれに対する本件不法行為日である平成七年八月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面

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